イキイキ家 両親の会話
元気で働けるうちは、働くつもりだから年金は繰下げしようと思っているの。
いつでも繰下げできるだろうからいいんじゃない?
1ヶ月でも遅らせたら繰り下げになるのかな?
1ヶ月ごとに割り増しがあるからそうなんじゃないの?
年金額を増やす手段として注目の公的年金の繰下げ受給ですが、65歳を過ぎればいつでも繰下げることができ、増額された年金を受け取れると思っていませんか? じつは、「最低繰下げ期間」が存在するのです。この記事では、誤解しがちな年金繰下げの期間と手続きについて解説します。
65歳から66歳までは繰下げにならない
年金の受給開始年齢を遅くすることを「繰下げ受給」と言います。繰下げ受給にすることで、受け取る年金額を増やすことができますが、じつは年金の繰下げ受給が可能になるのは66歳0ヶ月からです。 つまり年金を繰下げ受給しようと思ったら、最低1年間は待機期間が必要です。
年金受給は、日本年金機構から65歳になる誕生月の3ヶ月前に送付される年金請求書を提出することで開始されます。 老齢基礎年金、もしくは老齢厚生年金どちらか一方だけ繰下げたい場合は、請求書の「繰下げ希望欄」にて指定し提出しますが、両方繰下げたい場合には66歳まで年金請求書を提出してはいけません。66歳の誕生日の前日より前に提出すれば65歳にさかのぼって受給が決定され、増額なしの年金が支払われます。
繰下げたらいくら増える?いくつで繰下げたら多くなるの?
年金は1ヶ月繰下げするごとに0.7%ずつ増額されます。つまり、66歳0ヶ月時点では、8.4%(0.7%×12月)が増額されます。
70歳まで繰下げると42%(0.7%×60月)、75歳まで繰り下げると最大84%(0.7%×120月)が増額されます。
たとえば、会社員であった夫と専業主婦であった妻の例をみてみましょう(便宜上、妻は老齢基礎年金のみ、夫婦ともに20歳から60歳まで40年間未納なしとします)。
例)夫65歳 老齢基礎年金 6万6250円/月 老齢厚生年金 10万円/月
妻65歳 老齢基礎年金 6.万6250円/月 夫婦合計 23万2500円/月
老齢基礎年金、老齢厚生年金ともに70歳まで繰下げるとすると、夫婦の年金額は42%増額されて毎月33万150円。75歳まで繰下げると84%増額されて毎月42万7800円にもなります。あくまでも、わかりやすく説明するための数字であり、年金額は物価や賃金によって毎年調整されますし、税金や介護保険料などの社会保険料などを考慮していません。とは言え、これだけ増えると、老後の安心感はかなり大きくなるといえるでしょう。
繰下げ受給を考える上で、「何歳まで生きれば繰下げ受給した方が年金を多く受け取れるのか」と聞かれることが多くあります。
損益分岐点は、じつは簡単な計算で求めることができるので覚えておくとよいでしょう。
65歳で受給できる年金を100%とすると、繰下げのために受給できなかった年金を0.7%の増額で取り戻すまでの期間は、100%÷0.7%=142.85月(11年11ヵ月)です。
つまり何歳で繰下げたとしても、11年11ヵ月以上生きれば(受け取れば)、受給額は65歳で年金受給を開始した場合を上回ります。
しかし人の寿命は誰にも分からないため、損得だけで考えてはいけません。平均寿命が伸びていることや、100歳以上の人口も増えていることなど長生きのリスクヘッジとして年金の繰下げを検討すべきでしょう。
繰下げ待機中に、もし気が変わったら
年金の繰下げは、あらかじめ何歳まで繰下げるかを決めておく必要はありません。66歳以降、受給を開始したいタイミングで年金事務所に受給開始の手続きをすれば良いのです。
また、年金の開始請求を遅らせたからといって、必ず繰下げ受給をしなければならないわけではありません。
67歳で「やはり65歳から受給しておきたかった」と考えが変わった場合には、65歳に請求をしたものとして、さかのぼってこれまでの受け取っていなかった年金分を一括で受け取ることも可能です。
これまでは年金請求権には5年の時効があり、70歳以降に65歳からの年金をさかのぼって受け取ることを選択した場合は、5年以上前の年金は請求権消滅により受け取ることができませんでした。
しかし2023年4月1日施行の特例によって、今後は請求の5年前に繰下げ受給の申し出があったものとみなして増額された年金を一括で受け取ることができるようになります。(注)
これにより繰下げ受給という選択肢がさらに有利になったといえるでしょう。
(注)65歳からの年金をさかのぼって受け取るときの特例は、1952年4月2日以降に生まれた方(または2017年4月1日以降に受給権発生)で、2023年4月1日以降に年金の請求を行う方が対象です。
まとめ
年金の繰下げは、66歳以降1ヶ月単位で請求が可能です。しかし、65歳を1ヶ月でも過ぎれば繰下げができると誤解している人も多いようです。繰下げ受給をするためには、66歳まで最低1年は待機期間があることを覚えておきましょう。また、額面上の損益分岐点は11年11ヵ月ですが、損得にとらわれず受給開始年齢と受給額のバランスをご自身の生活スタイルや資産状況に合わせてデザインすることが大切です。人生100年時代、安心して長生きできるよう老齢年金を活用していきたいですね。